私は……こんな些細なことでさえ、嬉しくて、苦しくて仕方なくなる。
好きだって実感して……堪らなくなる。

それを平沢さんに伝えたら、いったいどんな顔をするんだろう。

そんなこと考えながら、平沢さんの後ろを歩いた。


部屋の前に立ち、鍵を開けると、すぐに平沢さんがドアを開ける。

私を入れたあと、平沢さんも入ってきたけれど、驚いたりはしなかった。
木崎さんから渡されたコンビニ袋は、平沢さんが持っているままだ。

だから、そういうことなんだろうとは思っていたから。

明かりをつけると、平沢さんは「おじゃまします」とひとこと言ってから、あがり、そのままキッチンに行く。

そして、シュークリームやらなにやらを入れるために冷蔵庫を開け……その瞳が驚き、それから困ったように歪んでいった。
それをぼんやり眺めていると、不意に視線が向けられ、ドキッと胸が跳ねる。

「華乃ちゃん……ダメだろ。ちゃんと食わないと」

冷蔵庫に入っているのは確か、栄養ドリンクと、栄養補助食品のゼリー、それとペットボトルが数本……それぐらいだ。
自炊できるような食材なんてなにも入っていない。

冷凍庫には、冷凍のグラタンやドリアがいくつか入っているけれど、平沢さんが心配するのも無理はなかった。

「今はたまたまそんなですけど、食べてましたよ、それなりに」

目を逸らしながら嘘をつくと、平沢さんがため息を落としたのが聞こえた。

平沢さんが呆れたときに決まってもらすそれに……懐かしさと愛しさから胸の奥が熱を持つ。

何度、心配のこもったため息をつかれただろう。

「嘘つくな」
「……嘘じゃありません」

「俺と飯食べなくなってから、目に見えて痩せてる。
さっき見たとき、一瞬かなりびっくりしたし、なんか病気なんじゃないかって本気で心配した。……病気とかじゃないんだよな?」

本当に心配してくれている様子の平沢さんにコクリと頷くと、はぁ……と、今度は安堵のため息が落とされた。

「……すみません」

謝ると、平沢さんは首を振り、困ったような微笑みを浮かべた。