とっくに恋だった―壁越しの片想い―



市のサッカー部ではキャプテンを務めているらしいけれど、適任だと思う。

本人はよく〝面倒くさいの俺苦手ー〟と言ってはいるものの、やればサクサクこなしてるし。

平沢さんも……多分、キャプテンとか任されるタイプだなと思う。
〝えー、俺? まぁ……誰もやらないって言うんならやってもいいけど〟みたいに、貧乏くじを引くタイプだ。

もちろん、まとめるのは上手いし、適任だけれど、人が苦労するなら自分が、という自分を犠牲にしちゃう人だ。

……私を相手にしてたときは、いつもそうだった。
だから……今は違っているといいなと思う。

どうやったって、どこの入口から入ったって、私の頭は平沢さんに終着してしまうと気づき、自嘲して笑みをこぼす。

居酒屋で膝を借りたときだって。優しく慰められたときだって。
どんなときだって、浮かんでしまうのは平沢さんのことで、なんで、と自然と眉が寄っていた。

収まったはずの涙が、またじんわりと浮かびだす。

ツラくなるから考えたくないのに、考えてしまう。

それでも、そのまま気持ちが落ち込んで、沈んでいかないのはなんでだろう、と考えて、そうか、と思う。

木崎さんに話を聞いてもらったからかもしれない。

ツラさの核みたいなものは、自分の問題だからどうにもできないけれど、話せば多少は軽くなるものなのかもしれない。
少なくとも私は、飲み会に行く前よりも回復している気がする。

スッキリ……とは言えなくても、持っていた重たい氷がじょじょに解け始めたようなそんな感じ。

頬にあたる外気も、それまでよりも冷たく、しっかりと温度を感じる。
歪みがちだった視界も、しっかりと世界を取り戻そうとしているのがわかる。