とっくに恋だった―壁越しの片想い―



〝終わりじゃなくて始まり〟という言葉に、思わず呆けていると、木崎さんが私を見て「俺は、そうやって諦める」と笑う。

その笑顔は、〝諦める〟なんて全然似合わないような明るいものだった。
いっそ、清々しいほどに前向きで、無意識に笑みがこぼれていた。

「あ、どうせ、馬鹿だとか思ったんだろ?! 仕方ないだろー。俺、そういう風にしか考えられないんだから」
「いえ。なんか……木崎さんらしいなって思っただけです。……っと」

クスクスと笑っていたら、不意に視界がぶれてよろついてしまう。

咄嗟に腕を掴んだ木崎さんに支えられて、バランスを取り戻し「すみません」と謝ると、木崎さんは不安そうに眉を寄せた。

「ちょっともー……野々宮、もう笑うの禁止! 少しでも体力温存しろ。じゃないと家まで辿りつかなそう……」
「大丈夫ですよ。毎日この道帰ってるんですから、意識が朦朧としてたって無意識に帰ってるもんでしょ」

「不吉なこと言うなよなぁ……。あ、コンビニあるじゃん! ちょっとエネルギーになるようなもん買っとこ」
「え。そんな溢れてるのに……」

「俺じゃなくて野々宮のぶん!」と言った木崎さんが、コンビニに入るから続く。

木崎さんは、私が食べられそうなシュークリームやらプリンをどんどんカゴに入れ、レジに持って行く。

勝手に買われているとはいえ、私のためにそうしてくれているんだし払おうとすると、お財布を出した木崎さんに止められた。

「いいよ。支店長にさ、飲み会費用として三万もらったんだけど、使い切んなかったから、それで払うし」
「え、それいいんですか?」

「支店長にも返さなくていいって言われてるしな。カラオケ行ったヤツらにも五千円渡してあるから大丈夫」
「じゃあ……ありがとうございます」

支店長も木崎さんも太っ腹だなぁと思いながら、お礼を言う。

お店の手配は木崎さんがしたんだし、成績だって一番だったんだから、木崎さんが多くもらっても文句言われないのに。