「……なんですか」
「あ、いや……だって、珍しいだろ。野々宮がそんなこと言うなんて。珍しすぎて度胆抜かれた感じ。あれだ、スズメに豆」
「普通に喜びそうですね。スズメ。……もしかしてですけど、〝鳩に豆鉄砲〟って言いたいんですか?」
「ああっ、そう、それ! 野々宮、調子悪くてもやっぱり賢いなー」
「……帰っていいですか」
呆れながら言うと、木崎さんは「あ、そうだな。そろそろホーム脱出しないと」と笑い、隣を歩きだす。
なんて言うか……本当にどこまでも素直な人だと思う。
純粋の塊、という感じ。
やけに鋭い部分があるのに、頭はいいわけでもなく、むしろよくはなくて。
向けてくる表情も笑顔も眼差しも、全部が真っ直ぐだから憎めない。
魅力しか持っていない、不思議な人だ。
そう考えて、〝ウグイス定期〟獲得金額も獲得件数も、店内トップは木崎さんだったことを思い出す。
樋口さんが、木崎さんは無駄に元気を振りまく、みたいなことを言ったらしいけれど。
それは、本当なんじゃないかと思う。
「木崎さんって、モテますよね」
ホームの階段を下りながら言うと、木崎さんはまた呆けた顔をした。
どうせ、私が恋愛関連のことを口にしたのが珍しかったのだろうと理解して、話を進める。
「気づかないうちに好きになられてたこととか、多そう」
「え……野々宮ってエスパーなの?」
「それは木崎さんでしょ。オーラがどうのって、そっちの方がよっぽどですよ。私のはただの観察の結果です」
「うぉお……まじか……」と呟いている木崎さんに「でも、そう言うってことはあたりなんですね」と言うと、墓穴を掘ったことに気付いたのか、苦笑いを返された。



