とっくに恋だった―壁越しの片想い―



「心配じゃん! いつも飄々と淡々としてる野々宮が、あんな風に泣いちゃうなんて思ってもみなかったし! 俺、先輩だしちゃんとしなきゃと思って平然としてたけど、内心、結構慌ててたんだからな。野々宮、俺が思ってる以上に弱ってるしどうしようって」
「それは……すみません」

確かに、いつもは可愛げのない後輩に膝で泣かれたら心配もするかもしれない。

「で、わたわたしてどうしようって思ってたらさ、野々宮がトイレ行ってる間に樋口が話しかけてきて、最近野々宮の様子おかしいよなって話になってさ……。〝あんた、無駄に元気振りまく体質なんだから送ってって元気づけてあげなさいよ〟って言われて」
「ああ……そうだったんですか……」

樋口さんは、私のことを気にかけてくれていたのを知っているだけに、陰でそんな会話をされていたのかと思うと、申し訳なくなる。

あとで謝っておかないと。

「樋口に言われなくても、どっちみち送ってはいくつもりだったんだけどさー……心配だし。でも、俺、女の子の扱いとかわかんないし。元気づけるって言ったってなぁ……元気の出るツボなんて、人それぞれじゃん」

困ったような顔で言う木崎さんに、申し訳なさに拍車がかかる。

樋口さんが陰で心配してくれていたことも、木崎さんがこんな風に考えてくれていたことも、〝ウグイス定期〟で忙しかった時期なのに……と思うと本当に申し訳ない以外に言葉が見つからない。

私は、人の好意を受け入れるのが苦手だから、それはなんだかむず痒くて……でも、やっぱり嬉しかった。

「そうですね。人それぞれだと思います。だから私は、木崎さんがそんな風に考えてくれてたんだって知っただけで充分元気のツボ押されました」

正直、こんな素直な気持ちを言うのは苦手だ。
恥ずかしいし、胸のうちを晒しているようでなんか嫌だ。

それでも、嬉しかったから素直に言ったのに、木崎さんはまるで珍しいものでも見たような顔をしてこちらを見ていた。
ぽかーん、って文字がおでこに見えそうだ。