とっくに恋だった―壁越しの片想い―



「ん」

隣に座った平沢さんが、私の前に白いマグカップをことりと置く。

茶色い液体が湯気を立てていて、香りからそれがウーロン茶だってことがわかった。

「ありがとうございます。わざわざいれてくれたんですか?」

「パックのだけどね。華乃ちゃんはたぶん、この時期はあったかいもののほうがいいんだろうなーって思って。ほら、夏の前も、七月半ばくらいまであったかいの飲んでたじゃん」

そう言いながら平沢さんが飲むのも湯気を立てたウーロン茶。
黒と白のお揃いのマグカップを久しぶりに見て、懐かしいなぁと感じる。

でも、いつもはこれを鳥山さんと使っているんだろうかという考えが追ってきて悲しくなるから、それを振り落とした。

余計なことを考えちゃダメだ。

「夏は、あたたかいものを食べたり飲んだりしたほうがいいんですよ」

誰でも知っているような豆知識を言いながら、最後のひとくちとなったパスタを口に入れる。

こんな風に、きちんと一人前を食べきるのは久しぶりだった。

お腹がぎゅうぎゅうで、一ヶ月だとかそれ以上振りに感じる満腹感に、少し驚く。
お腹って、こんなに満ちるものだったっけ。

「ごちそうさまでした。……おいしかったです」

土田さんの歌を、大きすぎるBGMに聞きながら言うと、平沢さんがホッとしたような顔をして笑う。
ほかのふたりは、肩を組んで声で拍子をとっていた。

「どういたしまして。なんか、華乃ちゃんに飯作るの久しぶりだから、正直、ちょっと緊張した」
「なに可愛こぶってるんですか。平沢さんはひとりでもいつも作ってるでしょ」

「んー? そうでもないよ。ひとりだったら面倒くさいってなってコンビニで買ってきたりもするし。今日だって、出来あいのもんだしね」