「俺を選んだら…お母さんに、なれないよっ…?雪は、家族ができなくなるよ…?」
自惚れだって構わない。
だって彼の全身が、私を想ってくれている気がしてたまらない。
声も身体も震わせて、それでも懸命に抱きしめ返してくれる。
和君だけじゃないね。
私も、大バカだ。
「和君は…?」
「え…?」
「和君が、私の家族になってよっ…」
ここまですれ違うほど、気づかなかったんだもの。
こんなに互いを想い合っていたのに、私たち、似た者同士のおバカさんだね。
「…っ、っぅ」
和君は、涙をこらえるように息を飲み込んだ。
ーーお願い、聞いて。
「少しでも、私を好きで、いてくれるなら…そばに、いさせてほしいっ…」
「…ゆ、き」
「和君がいないと、わたし、私…幸せになれなぃ…」
私の気持ちを、受け取ってください。
「そんなの、っ、俺のセリフだっ…」
病室に響いたのは、嗚咽交じりのそんな言葉。
すーっと、静かに頬を伝う雫が、少しくすぐったい。
「お願い…雪、もう、我慢しない…」
私はその声だけを聞いていたくて、目を閉じた。
「絶対泣かせない…。寂しい思いも、悲しい思いもさせないから…」
「……」
「…俺を選んで、雪ッ…」
耐えきれなくて、私の口からも嗚咽が漏れる。
私たちの顔はきっともう、涙でぐちゃぐちゃのはずだ。
「俺には、お前しかいない…ッ」
ーーー互いを強く強く抱きしめながら、私たちは、ようやく想いを結ばせた。
和君の方に顔を埋めて、何度も何度も…何度も何度も首を縦にふる。
すれ違いの日々を埋めるように、
この思いが相手に届くように、
夕日に照らされた病室で、壊れるほどに抱きしめあった。