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高校2年の、二月二十七日。



愛しい人の誕生日である今日に、俺は一人屋上で風を感じていた。


冬だから、とても冷たい。



目をつむって、彼女のことを考える。


今日は、誰かに祝ってもらっているかな…?

ねぇ、雪。


ーー幸せに、なった?




会えない月日は、本当に長かった。

長くて長くて、毎日が苦しい。

君を想うたびに、忘れられないと痛感するたびに、


全身が愛しいと叫んでいた。



自分から離れたくせに、めんどくさい男。



でもね、一日たりとも、雪のことを忘れたことなどなかった。

考えない日など、ありはしなかった。






俺は、変わったと思う。

勉強も首席はずっとキープしているし、周りの人に作り笑いが出来るようになった。

生徒会長も任されて、自分で言うのもアレだが、告白も日常茶飯事だった。



でも、その度に心が悲鳴をあげる。

『雪じゃなきゃ無理』って。


俺、結構いい男になれたと思うんだけどさ…なんでだと思う?

会えないお前に、好かれるために頑張ってるって言ったら、バカだって思うかな。


でも、ほんとうにその通りなんだ。


何かあった時、雪をすぐに助けられる力を手に入れようと思った。

地位も名誉も手に入れて、そばで雪を守る盾になるんだ。


俺のそばにいてくれなくったって、もしお前がピンチな時は、必ず駆けつけられるように…


ーーなんて、


虚しすぎて、泣きたくなった。



手のひらに、冷たいものが落ちる。

これは、涙ではない。



…あ。


「雪だ…」



空を見上げれば、柔らかい雪が降っていた。


なんてタイミング…あ、やばい。


堪えたはずの涙が溢れ出して、今度はほんとうに、俺の手を濡らした。



会えない期間が長ければ長いほど、気持ちは薄れるなんて、一体だれが言ったんだろう。

そいつに、文句を言ってやりたい。



嘘をつくなと。

真逆だ。



「無理…雪、好きだ…」



会えない日々の中でも、彼女へと気持ちは増していくばかり。

溢れて溢れて、止まらない。

もうきっと、自分でも抱えきれないほどに彼女に恋い焦がれている。


雪はもう、俺なんて忘れたかな?


忘れられてたら…それはそれでいいじゃないか。

雪のためには、そっちの方がいいはず。



けれど、心の中のどこかで、必死に叫んでいた。

俺を忘れないで。







俺がそんな、生半可な気持ちでいたからだろうか。



「新入生代表ーー白川雪」



お前が、俺の前に現れた。

そして、俺を好きだといったんだ。



なぁ…俺が、どれだけ嬉しかったかわかる?

その言葉に応えられないことが、どれだけ苦しかったかわかる…?



お前が俺を好きだというたびに、歓喜で震える自分がいた。


俺はほんとうに自分勝手で、最低な男。



お前の夢を叶えてやれないこんな身体ごと、俺が消えてしまえばいいのに。

お前と再会してから、毎日そう思っていた。



でもね、


ただただ、ほんとうに、雪が好きだったんだ。


守りたかったんだ。

幸せになってほしかったんだ。


それだけは…嘘偽りない気持ちだから。


俺は…雪じゃないと無理。

雪以外は…愛せない。