周りのことばっかり考えて、自分は痛くても我慢できるだって…?
雪の優しさが、とてつもなく痛々しかった。
けれど、こんな綺麗な人はいないと思った。
もっと周りを責めてもいいんだ。
自分を大切にしていいんだよ。
そう言いたかったけど、雪はきっとそんなこと言ったって、変わらないんだろう。
周りを優先して、いつだって自分を疎かにするんだ。
なぁ…
ーーこんなやつを、どうやって愛さずにいられるんだ。
抱きしめる腕に力を込めた。
肩が、濡れているのがわかる。それは、きっと雪の涙のせい。
ああ、愛しい。
俺はこの子が愛しいんだ。
全身がそう叫んでいた。
この子が自分を大切にしないなら、俺がこの子を大切にしよう。
誰よりも大事に大事にして、幸せだけを与えてあげたい。
この子の何もかもを、守ってあげたい。
そして、その日から俺は変わった。
今までしなかった宿題は必ずするようになったし、テストだって頑張った。
運動も、素行も、誰にも文句を言わせないように。
今の俺は弱いから、もっともっとつよくなって、大きくなって、雪を幸せにしてやるんだ。
俺は、この子を世界で一番の、しあわせ者にしてあげるんだ。
その日から、それが俺の夢だった。
唯一の、何に変えても叶えたい願いだった。