「俺がっ、お前をっ…忘れるわけがないだろ…ッ」



その言い方は、思い出したとか、そういう意味を含んだものではなかった。

そう、まるで、もともと忘れてなどいなかったと言うように。


忘れた…フリをしていた、の?




「ダメだ…俺、変なこと口走りそうで…。俺から離れろ、雪ッ…」



抱きしめられているから、和君の表情は見えない。

けれどその声は、とてもとても苦しいもので、私は心臓が痛くてたまらなかった。

ねぇ、和君…



「離れろなんて、和君…」



出来ないって、わかって言ってるの?



「そんな強く抱きしめられたら、離れられないよ…」



苦しいほどきつく抱きしめられていて、私の力じゃ離れることなんて出来ない。

振りほどくことなんてできなくて、和君もきっとそれをわかっている。



「雪…ゆ、き…俺っ…」



私の名前を何度も何度も、これでもかというほど、苦しそうに呟いた。



「うん、どうしたの和君」

「聞いてッ、俺の、俺の話も…聞いてくれ…」



一体、何を話してくれるのだろうか。

わからないけれど、聞きたかった。



「うん。聞かせて」



君が紡ぐ話なら、いくらでも。


病室は、まさに『静寂』を表すように静かだ。

和君の声が、心地いいほどに響く。


私は、その腕の中で、彼の言葉に耳をすませた。