私のことを話そう。
あなたが知らない、知らなくていい、思い出を。
ゆっくりと、私は椅子から立ち上がった。
まるでスローモーションのように感じたその瞬間、私は今にも泣き出しそうなのをこらえ、口角を上げる。
「水谷さん」
そう声にして、和君だけに向けて微笑んだ。
窓際に寄って、一瞬だけ空を見つめる。
外には夕日が浮かんでいて、まるで和君と別れたあの日のよう。
「どうしたの?」
「ちょっと、お話してもいいですか?」
ニコッと微笑み、首を縦に振った和君。
再び涙が出そうになり、慌てて笑顔を作った。
泣く、ものか。
私はケジメをつけに来ただけ。
和君に迷惑をかけないと決めたんだ…。
「私ね、好きな人がいたんです」
あえて過去形にした、それ。
和君は、少し驚いたリアクションをしたけれど、優しい笑顔は崩さなかった。