どちらからとも何も話さず、否、和君が私に話すことなんてあるわけがない。
だって、記憶がない彼にとって私は赤の他人のようなもの。
私から、話さなきゃっ…!
そう思った時、ベッド横のテーブルに、何もかかれていない短冊が置いてあることに気づいた。
あ…そっか、明日は、七夕。
「短冊ですか?それ…」
「ああ、そうなんだ。病院のスタッフから患者に配られてるそうでね。俺も渡されたんだけど…」
「何を書けばいいかさっぱり」と言って、困ったように笑った和君。
私は、思い出した。
毎年一緒にマンションに置かれた笹に、短冊をかけた。
けれど、和君はいつも何を書いたか教えてくれなくて。
『和君はなんて書いたの?』
『い、いつか教えてやるよ!』
顔を真っ赤にして、そういった彼。
和君は、そんなこと覚えてないよね…?
けれど、私は鮮明に覚えているよ。
あなたと過ごした日々を。
あなたと交わした言葉を。
あなたが私にはくれた…幸せを。
…そっか。単純でいいんだ。