今日は指の調子が良いなぁ…勝手に動くみたい。
目を瞑りながら、私もこの曲のメロディーに酔う。
…あ。
ふと、さっきの出来事を思い出して鍵盤を叩く指を止めた。
不思議そうな顔で、ストローを加えたまま私を見る和君を見つめ、口を開く。
「ねぇ和君。ちゅーは、誰とでもするものなの?」
「ぶっ…!!おまっ、何言ってんの…!」
「えー…だってね、雪見たの。お父さんと和君ママがちゅーしてるの」
私の言葉に、和君は目を大きく見開いた。
そして、その顔が悲痛に歪む。
「…本当に言ってるのか?」
「うん、さっきだよ?」
こんなに険しい表情の和君、見たことないと思った。
そう思うほど、何かに酷く焦った様子の和君。
数秒悩み込んだ後、私の肩を掴み、目をじっと見つめてきた。
「雪…そのことは絶対に誰にも言っちゃダメだ。絶対だぞ」
「どうして…?」
「どうしても、だ。これは俺と雪の秘密な?」
私と、和君の、秘密?
二人だけの?
私は、秘密にする理由はわからなかったけれど、それでも、和君と二人だけの秘密…というのが嬉しくて、小指を握り合ったのだ。
今になって思う。
どうしてこの時、
この人の小指を握ってしまったんだろう…と。
この時、和君ではなく、他の人に話していたならば…
…私たちには、別の未来があったのだろうか。