「私、お父さんのあんな幸せそうな顔、見たことないっ…」



和君が、眉を顰め顔を歪めた。



「二人とも、すっごく…幸せそうだったね…っ?」



ねぇ、和君…



「ごめんね、和君っ…」


「…っ、雪…!?」


「ごめん、ねえ…っ」



一体何に対してのごめんねなのかは、もう私にもわからなかった。


それでも、そう言わずにはいられなかった。

心臓が引きちぎられるように痛くて、息をするのも苦しくなってくる。


突然だった。

雨のせいで冷たいはずなのに、酷く暖かい体温に包まれたのは。


…かず、君…?

…っ、どうしてっ…


疑問がまた、1つ増える。


私を強く抱きしめながら、和君は耳元で囁いた。



「お前は何も…悪くないから」



ーーーーー嘘だ。


いくら和君の言葉でも、それだけは信じられなかった。


だったらどうして…私の前からいなくなったの…?

大切な人はみんな、いなくなった。

それは…私が悪い子だから、でしょっ…?



雨は止むどころか激しさを増し、豪雨が私と和君を打つ。

泣くことしか出来ない駄目な私を、和君は黙って抱きしめる。



「悪いのは…お前以外だよ、雪」



大雨の中、和君の消えそうな声は、私に届くことはなかった。