この場にいるのが限界だった。
風邪で怠い中、全速力で廊下を走った。
私を呼び止める和君の声が聞こえたけれど、無視して階段を駆け下りる。
マンションから出ると、いつの間にか本格的に降り始めた雨の中、御構い無しに見知らぬ道を駆け抜けた。
『私からも初めまして。理恵子さんの旦那の、拓海(たくみ)です。再婚だから、和哉君の義理の父って感じかな…』
『随分可愛い彼女だね、流石和哉君』
『和哉君、彼女のお名前は?』
和君ママの隣で、微笑むあの人の笑顔が焼き付いて離れない。
彼は私のことを忘れたらしいけれど、私は覚えている。
忘れるわけが、ないのだ。
否、忘れられるわけがない。
あーあ…ほんと、頭良いのに、どうして忘れちゃうかなぁ…私のこと。
名前は?だなんて…自分が付けた名前でしょ。

