妖しく溺れ、愛を乞え

「ジャガイモ入れた味噌汁、好きなんだ。美味しいよ」

 火が通って透き通ってきたら食べごろだ。あまり柔らか過ぎてもいけないし。ジャガイモの出汁が出て美味しいんだ。

「小さいころ、食べた記憶があるんだ。だからたまに……作るの」

 味噌汁を一緒に食べた、あのころの家族はもう居ないけれど。

「タマネギも美味しいんだよね。あたし、好き……」

 すっと深雪が肩を抱いてくる。音を立てずに静かに近寄って来るの、やめて欲しい。びっくりするでしょうが。足音がうるさいのも嫌だけれど。

「どうして泣いている……雅」

「し……心配して、あたし。びっくりしたんだから……」

「ごめん。大丈夫だから」

 大丈夫じゃないくせに。
 呪いで蝕まれた体がどのくらい酷いのか、正直あたしには分からなかった。血が出たり骨折したり、目に見えるものではないから。でも、苦しんだり倒れたり。目の当たりにして、段々と深刻な状態なんだと感じ始めている。

「あと、どれくらいなの」

「……雅。大丈夫だよ。心配するな」

「だって」

「俺たち寿命が長いんでねー。少なくとも雅より先には死なないんじゃない?」

 おどけて見せる深雪を見るのが辛い。また冗談を言って……。もうすぐ消滅するって言ったじゃないの。

「良い匂い」

 深雪が目を閉じてそう言った。

「あ、もう出来たよ。具を足しただけなんだけれど」

「じゅうぶん。腹が減ったよ」

 食欲があるということか。少し安心する。
 鍋でジャガイモを茹で、インスタントを溶いただけの味噌汁。それをお椀によそう。

「乾燥わかめでもあれば良いよね」

「そうだな、今度買って置くか」

「サラダにも使えるし」

 お椀から湯気が立つ。味噌の言い香りが立ちこめる。お腹がきゅうと鳴った。

「週末、買い物に行こう」

「スーパー、行きたい」

「雅が行きたいところ、行こう」

 スーパーの他は、あとホームセンターと……。

「あと、水族館に行きたい」

「思い出、作ろう。たくさん」

 少し、寂しげな笑顔が気になったけれど、そうだね。あたし達にはまだ思い出が少ない。たくさん作るっていうアイディアは、良いと思うよ。

「うん。その案、賛成」

 そう言って笑うと、深雪も笑顔で返してくれた。

 ああ旨いと言いながら、味噌汁をすする深雪の笑顔。

 あたしはいま、上手く笑えただろうか。