妖しく溺れ、愛を乞え


 ◇


「大丈夫?」

 マンションに着くと、とりあえず楽な格好に着替えさせた。

「大丈夫だよ、心配性だなぁ」

「当たり前でしょ、倒れたりして……」

 さっきまでドタバタしていたから気が付かなかったけれど、横を向くと頬に少しだけ擦り傷が付いている。やっぱり、倒れた時に打ったんだな。でも、擦り傷だけで済んで良かったと思うべきか。

 お湯を沸かして、コーヒーでも作ろうか。甘い方が良いのかな。

「なんか、飲む?」

 あたしも部屋着に着替えながら、彼に声をかけた。

「あー……そうだな、味噌汁」

「は?」

「インスタントの、あっただろう」

「あるけど」

 キッチンの引き出しを空けると、1食ずつ味噌が小分けになったインスタント味噌汁が入っている。わかめだけが入ったやつ。朝はこれがあるととても助かる。

 味噌汁なら飲みたいのか。冷蔵庫を空けると、野菜室にジャガイモとネギ。

「ちょっと、待って。インスタントだとアレだから具を増やしたい」

「いいよ。わざわざ」

「あたしも飲みたい。飲みたいっていうか食べたい。そんなに時間かからないで作れると思うから、待ってて」

 深雪がなにか言っているけれど、無視した。

 飲むより食べる味噌汁がいい。元気になるし。

 ピーラーでジャガイモの皮を剥き、芽も取る。少しくらいなら料理できるんだから……インスタント味噌汁に具を足すだけなんだけれどね。それでも、栄養が違うと思うから。

「明日、休むでしょ?」

「どうしたら良いと思う?」

「倒れたくせに。休んでください。じゃないと周りが気を使う」

「そうだな」

 喋っている間に、鍋がクツクツと沸騰してきた。そこに細く切ったジャガイモを入れた。
 休んでくれないと困る。周りが気を使うなんて言ったけれど、深雪の体が一番心配だった。