妖しく溺れ、愛を乞え

 深雪を助けるためとはいえ、自分の精力を使うわけだから、あたしが体調を崩したりはできない。しっかりしないと……寝不足とか風邪をひいたりすると、黄金血の力って弱まりそうじゃない?

 そのへん、帰ったら深雪に聞いてみよう。

 パソコンで作成途中の書類データを開く。明日まで完成させれば締切に間に合う。請求書の束と伝票を取り出して、電卓とペンを用意する。

「よし」

 OLは、寝不足だのセックスやり過ぎで疲れただのと言っていられないのだ。今日もがんばるぞ。

 いや、ちょっと語弊があるか。世のOLさんが全部そうじゃない……セックスやり過ぎたりはしていないよ……。

 何度も深雪に抱かれることを思い出し、恥ずかしくなったり無力さを感じたり、睡魔に襲われて白目をむいたりしながら、仕事をした。



「あ、帰って来たみたいね。専務たち」

 初乃さんの敏感さと地獄耳、気の利きようは社内の誰も敵わないわけで、ボーっと仕事をしていたあたしは、深雪たちが帰ってきたことに気が付かなかった。

「あ……お茶、あたしやります」

「ありがと。よろしく~」

 意味深にウインクされて、苦笑いをする。その顔のまま準備しに席を立った。
 
 絶対なんか誤解している。一緒に住んでいることがバレてしまうことは、本当まずいし、第一あたしの住所は順と住んでいた場所のままだった。

 本当は、部屋を探さないといけないのに、そんな場合じゃなくなってしまった。いまの深雪を置いては出られない。

 住所変更しなくちゃ……って、どこに。

 眉間にきっと深く皺を刻んでしまっているに違いない。ああもう。

 3個の湯呑みをお盆に乗せ、支店長室へ行った。