なにとんちんかんなことを聞いてくるの、この人。
組み敷かれた状況から抜け出せるなら、総合格闘技でも習っておけば良かったかもしれない。芸は身を助けるって言うし。抵抗できず、されるがままになるわけにはいかない。
「こういうのは、ちょっと! すみません。昨日酔っぱらってご迷惑かけました。クリーニング代を」
「そんものはいらない」
「で、でも、こういうのは違う……知らないし、あなたのこと」
「知れば良いのか」
「そ、そういうことじゃ」
抵抗するあたしの目をのぞき込んでいた彼の目が、ぐっと近付いて来たと思ったら、柔らかな感触が唇を包んだ。
うそだろ。
「ぅいえええええやめてえええええ」
悲鳴だ。悲鳴を上げろ、高らかに。あたし、犯されちゃうよ。
「……なんて声を出すんだ」
あたしの悲鳴が強烈だったのか、男はあたしから体を離した。いまだ。逃げろ。その隙に体を起こして、ベッドが付けてある壁に背中を当てた。ああ、なんで壁に逃げたんだ。出口に向かえば良いのに、もう!
「お、お願いです。見逃してください。なんでもします。ただ、こういうのだけは……お金、お金なら出します」
このまま逃げられないでレイプされて殺されて捨てられるか、埋められるか、どこかへ売られたりするかもしれない。
「おい」
「あんまり、持ってないけ、ど」
怖くて、涙が出てきた。
「お、お願い。生きたまま埋めたりしないで……」



