妖しく溺れ、愛を乞え

「ね……見せて」

「なにを」

 ブラウスのボタンは全部外されていた。

「羽と……あっちの深雪が見たい」

「あっちって?」

「白い髪の」

 少し驚いたような目であたしを見てから、少し考えてから、目を閉じた。
 すぅっと髪が伸びて、白と銀の間の色を纏った。とても綺麗。最後少しだけ、フワッと冷たい雪が舞った。

 そして、バサリと音を立てて背中から黒い羽が突き出た。その時の風圧で、テーブルの上にあったビール缶が床に落ちる。残っていたビールが散らばった。
 音に驚いて、ふたりでそちらを見た。

「あーあ」

「良いよ。明日、俺が片付けるから」

 ぐっと顔を寄せて来て、視界を塞がれる。深雪であって、彼じゃないみたい。ふたり居るみたい。なんて。

「怖くないのか。こんな姿……」

「怖くないよ」

 切れ長の、黒と深い青の瞳。白と銀の長い髪。黒い羽。こっちが、本当の深雪。

「こっちが良いなら、ずっとこうしてるけど」

 指が足の間に入って来て、奥へ奥へと侵入を開始している。ああ、今夜もか。仕方ないなぁと思いながら、体重を彼に預ける。

「……今夜は、いいよ」

 体の中をかき回されて抉るような痛みと快楽。
 ふたりの深雪に抱かれているような錯覚。

 過去も未来も、考えたくなくて、感覚に身を任せたくなる。

 人間じゃない深雪に愛されて、毎日毎日、心も体も愛されて。あたしはその沼に嵌って行って。深雪は、真っ直ぐにあたしの中に入ってくる。

 動けなくなって、消えていく運命の、あなたは。

 これからどうするの? どうなって行くの? あなたのそばに居て、それでどうなって行くの?

 聞いても、きっと深雪には答えられない。

 本当に動けなくなるまで、それまでそばに居て欲しいと、哀願する深雪を、あたしは見捨てられない。白く悲しいこの妖怪を、あたしは捨てて行けない。

「……きみは、変わってる」

「そう、かも」

 荒くなる息、上がる体温と汗ばむ肌と。

「雅の全部が、欲しい」

 いっそ、食われて一部になった方が、楽なのに。

 そんなことさえ思ってしまう。

 狂気の様な欲望を体にねじ込まれて、喘ぐ。それに慣れてしまった体は、もっともっとと、欲張っていく。戻れない。もう、深雪を知らなかった頃のあたしには、戻れない。

「み、ゆき……っ」

 無意識に叫んで、目の前で揺れる長く白い髪の毛を掴んだ。


 意識が弾け飛ぶ。ぎゅっと閉じた目に、深雪の残像。瞼の裏に広がる白と同化して行った。