妖しく溺れ、愛を乞え

「……帰って来ないのかもと、思っていた」

 ぼそりと言って、ため息をついている。

「どうして」

「帰りが……遅いから……」

「大丈夫だよ。ちょっと遅くなっただけ」

 すねているのだろうか。深雪らしくない。

「ベッドで寝てね。体が痛くなっちゃう」

「雅」

 立ち上がろうとした時、腕を掴まれた。そのまま引き寄せられて、ドンと胸に落ちる。

「戻って来なかったら、どうしよう」

「……なに、言ってるの?」

「雅が、いってきますって出かけて行って、帰って来なかったら。俺、どうするだろう」
 さっきまで寝ていたくせに。ソファーに座ったままで寝ちゃっていたくせに。

「どうするの?」

「うん」

「あたしが、帰って来なかったら、どうするの?」

 深雪の手が、スカートの中に入ってくる。どさくさ紛れになにを触っているんだ。帰って来なかったらなんて、子供みたいなことを言って。

「ちょっと……帰って来たばかりだし。あたしお酒飲んでるから」

「別に良いだろう」

「深雪」

 調子が悪いのだろうか。どこか痛いのだろうか。毎日の様に求められて、体の心配が先に立ってしまう。

 あたしのこの体は、役立つ。深雪には無くてはならないものだ。

「もし、きみが帰って来なかったら、また誰かに拾われたと思うことにする」

「あたしは財布か」

 そういえば、深雪もビールを飲んでいた。酔っているんだと思う。

「拾われて、それが良いやつなら、納得すると思う」

「なにそれ。納得って」

 自分があたしを拾ったからって、ひとをいちいち落し物みたいに。

「納得しなかったら、どうするの」

 スカートの中をまさぐっていた手は下着を脱がしにかかっていて、もう一方の手はブラウスのボタンを外そうとしていた。器用なものだ。

「そいつぶち殺して、雅を取り戻す」

 愛されている安心感は、あたしを飲み込む。こちらから発信しなくても、この男はあたしを自分の愛で飲み込もうとする。

 このままでいたい。そう思う気持ちがあった。何者でも良い。その燃えるような想いであたしを雁字搦めにして欲しい。逃げられないように。

 湿った音を立てるキスに蕩かされて、脳の中心がぼうっとしてきた。