妖しく溺れ、愛を乞え


 ◇

「そろそろ帰るね。また近いうちに来ます」

「気を付けて帰ってね。ありがとう。彼にもよろしく」

 その言葉に苦笑いを返し、ミミさんの店を出る。少し大きい道路に出てから、タクシーを拾った。ひとりゆっくりお酒を飲めて気ばらしになったけれど、少しでも早く、帰りたかった。

 予定よりも少しだけ遅くなってしまった。帰ったらすぐシャワーを浴びて寝てしまおう。
 大丈夫、そんなに飲んではいない。ほろ酔い程度だ。

 サンドイッチは、明日の朝食かな。いまからはさすがに食べないだろうから。
 23時を少し回った頃。深雪はもう寝ているだろうか。

 少し手前のコンビニでタクシーを降り、念のために二日酔い防止ドリンクを買う。水と、ドリップコーヒー。深雪が飲むと思うから。

 おにぎりとサンドイッチのコーナーをちらりと見た。夕食、ちゃんと食べたかな。手を伸ばした時、ミミさんのお店でサンドイッチを買ったことを思い出す。忘れるなんて。やっぱり少し酔っ払っているのかな。

 会計を済ませて、小走りでマンションへと急いだ。

「ただいま……」

 時間も時間だったから、静かに施錠をした。電気が点いている。ということは起きているのかな?

 リビングのドアをそっと開けると、音量が低く設定してあるテレビが点いていた。そして、ソファーにもたれて目を閉じている深雪が居た。

 そばに寄って見ると、静かに胸が上下している。表情も穏やか。ただ眠っているだけだ。ホッとして息を吐く。

 テーブルには半分食べたパスタと缶ビール2本。お皿に残したままで……ちゃんと食べないとだめなのに。

 すぅすぅと呼吸する深雪をじっと見ていた。
 起こしちゃ可哀想だけれど、このままソファーで寝かせておくのはちょっと。体が痛くなっちゃう。

 買って来たサンドイッチをキッチンへ置き、リビングへ戻った。

「深雪、深雪」

 そっと肩を触り、声をかけた。こんなところで寝ていちゃいけない。着替えもしていないし、体も休まらない。

「……」

 閉じていた目が、ゆっくりと開いて、あたしを認める。気持ち良く眠っているところ悪いけれど、ベッドへ行って眠って欲しい。

「深雪、ベッドで」

「帰って……来たのか」

 斜めになっていた体を起こして、目をこすっている。あたしは、隣に腰をおろした。