妖しく溺れ、愛を乞え

「なんだ、否定しないなら好きなんじゃん」

「いやいや」

「なんで言い訳してるのかなー? だめな理由があるのかなー?」

 少しからかい気味にミミさんが言う。

「相変わらずグイグイ来ますね、ミミさん」

 笑って誤魔化した。

 愛に飢えているのは分かっている。寂しいふたりが出会ったら、惹かれ合ってしまうのは当然なのかもしれない。

 どうして言い訳をするんだろう。気持ちの言い訳。誤魔化し。自分が辛くない方に導く為の言い訳。


「あたしは……深雪を、ちゃんと好きなのかな」

 呼ばれてオーダーを取りに行ったミミさんの背中を見ながら、独り言を言う。あの日もこんな感じだったな。
 でも、寂しくて泣いたりしない。全然、心細く無い。

 ひとを好きになることに、期間も理由も必要無い。

 安心するとか、必要だなとか。一緒に美味しいもの食べたいなとか。これ美味しいから食べさせたいなとか。自分より大切だと思ったり。笑顔が見たいな、とか。

 そこまで考えて「好きになるのに、時間と理由が必要か?」と言われたことを思い出す。

 深雪、同じことを言ってたんだな。

 ビールは、あと1杯で終わりにしよう。ちゃんと、帰らないと怒られるし。あいつ、怒ったらなんとなく大変そうだし、市内を凍らせたりしそうだし。

 ふふっと、笑いが込み上げた。サンドイッチ、美味しいって笑うかな。チーズ好きだったかな。どうだったかな。でも、苦手だったらあたしが全部食べるから良いよね。

 太るぞって、きっと笑うよね。