妖しく溺れ、愛を乞え

「拾われたんです」

「拾われた?」

 ミミさんが驚くのも無理は無い。でも、本当なんだよ。笑えるよね。

「あの日、あたし泥酔して、道で動けなくなっちゃって」

「ああ、すごい飲んでたもんねぇ。でもしっかり歩いて帰っていたと思ったけどなぁ」
 
 チーズサンドが出てきた。美味しいんだ、これが。話の途中だったが、我慢できず、大きな口を開けて、サンドにかぶりついた。

「おいふい」

「良かった。で、拾われたってナンパじゃないの、それ。大丈夫なの? 危なかったんじゃないの?」

 パンの香ばしさ、チーズの塩気と油気が口の中で踊るよ。美味しい。それをまたビールで流し込む。

「泥酔して動けなくなったところを介抱して貰って、それが出会い。とりあえず危ないことは無かったと判断しまして、そのあと、一緒に住んでるというか、住まわせて貰ってる感じ」

「へぇ。そんなことってあるんだね」

「でしょ。あたしも不思議」

「捨てる恋人あれば、拾う男有り」

 その通りだよ。ミミさん。男だけれど、妖怪でね。人間じゃなかったよ。

「出逢っていきなり同棲かあ。まぁでも、数ヶ月で電撃結婚するのってそういう感じなのかな。あたしはよく分からないけれど」

 出逢って数ヶ月。そうだね、その域なんだよ、あたし達も。

「同棲……なのかな。あたし居候のつもりなんだけど」

「彼氏じゃないの?」

「うーん……どうなんですかねぇ」

 サラダの人参をかじる。どうなんですかねーなんて自分で言っておいて、馬鹿だなと思う。
 セックスしているのに、恋人じゃない。本当に? 深雪はあたしを好きだと繰り返す。なにがだめなの?

「雅ちゃん、その人のこと、好きなのかな?」

「うーん……」

 なんて言ったら良いのか分からない。またサンドイッチをかじった。