妖しく溺れ、愛を乞え


「す、すすすみません。あの」

 お礼を言って、クリーニング代だけでも渡して、帰って貰わないと。法外な金額を請求されたらどうしよう。
 悪そうな感じはしないんだけれどな。匂いとか、悪い匂いとかって、きっとあると思うの。

「お前誰だよって顔してるな。酔っぱらって道でゲロしてたのを助けたんだから、お礼をされたいくらいだぞ」

「あ……うう」

 やっぱり。ホテルまで運んでくれたんだ。昨日から運ばれてばっかりだ。荷物運んで貰ったり、自分自身まで。ああ、最低。

「すみません……」

 首にかけたタオルで顔を拭きながら、大きく息を吐いた。呆れてるんだろうか。

「まったく」

「あの、なにか……ありました?」

「なにが」

「昨夜……あの、あたし達」

 なにか、したでしょうか。ゲロ以外に。

「なにも無いし、なにもしてない」

「……そうですか」

 ほっとした。あからさまな態度にフンと鼻を鳴らされてしまった。

「なに、ガッカリした? なにかしたかった?」

 そう言って、彼はあたしに顔を近付けて来る。
 そばに寄らないで欲しいんですけれど。そう思うのは、自分はきっと酒臭いだろうと思うのと、その、あの、美形で。

「こっち見んな」

「あ?」

 思わず口走ってしまう。

「邪険にされる覚えは無いが」

「ご、ごめんなさい……」


 頭を下げると、その頭を抱かれてそのまま押し倒された。

「礼は貰う」

「え、ええ! だ! が!」

 お金じゃなくて、こっちか。こっちが欲しいのか! おうおう、そうなのか!
 長い手足であたしを巻き込むようにして、服を脱がせようとする。うそでしょ。冗談じゃない。

「ちょ、ちょっとちょっと!」

 両手に渾身の力を込めて、男の体を押し退けた。バージンじゃなくたって、誰にでも股を開くわけにはいかない。たとえ美形でも。クソが。

「なんだ、嫌なのか」

「嫌に決まってます!」