妖しく溺れ、愛を乞え




 ◇

 失恋して泥酔するなんて、そして道でゲロするなんて。最低。

 深酒してもろくなことが無い。分かっている。もう飲まないと思うのに、誓うのに。人間って馬鹿ね。同じことを繰り返すの。

「おい」

 ああ……あたしったら。

「おい、起きろ」

 ちょっと、頭痛に響くじゃない。静かに……。

「起きろ!」

「ぎゃあ」

 耳のそばで言われて、飛び起きた。え? 起きた? 寝てたのか、あたし。

「いつまで寝てるんだ。いい加減起きろ」

「え? ……え?」

 そうだ、ホテル。ホテルだ。昨日、大荷物を持ち込んで、次の部屋が見つかるまでここで……え、なんであたし。ていうか、この人、誰。

「覚えてないのか、泥酔女」

「いや、あの」

 半裸だし。なんで半裸? あたし部屋にストリッパー連れ込んだの? 酔ってたから? なんで? うそでしょ、お酒って怖い。

「ゲロでTシャツが汚れたからな。干してる」

 タオルで頭をガシガシと拭きながら、その人はベッドにどっかりと座った。あたしの体が跳ねる。

「えっと……」

 恐ろしい……。いや、あたしはちゃんと服を着ている。過ちなんか犯していない、はずだ。

 酔って行きずりの男をホテルに連れ込み、そういうことになってしまったとか、そういうことじゃないはずだ。だめだ。あたしはそういう展開は嫌いだ。

 それより、ちょっとこの状況もまずいんじゃないかしら。この人、悪い人かもしれないし、お金を要求してくるかもしれないよ。歳の頃は……あたしよりちょっと上かな。30手前くらいの感じ。経験は浅いけれど知識はあるかもしれないし。なんの? 知らない。

 ああ雅。あなたって馬鹿だよ。