妖しく溺れ、愛を乞え

 問い詰めたつもりは無かったのに、深雪が辛そうな顔をしていたから、とても胸が痛んだ。違うのに。そうじゃないのに。

「……理由なんか無いんだ。酔って泣きながら道で吐いてる女が居て、なんだしっかりしろよって声かけようと思ったら、黄金血の匂いがした」

 匂いで分かるんだ。さっき、あの男も言っていた。

「さらって、食ってしまおうと思った。近付いて、腕を掴んだ……きみは、寂しいよ、誰か側に居てよって、俺の目を見ながら……泣いて言うんだ。惚れるだろ」

 そこまで覚えてない。それに、きっと深雪を見てそう言ったんじゃないと思う。

「馬鹿なの……? 惚れないでしょ」

「俺と同じだと思ったよ」

 フッと笑う深雪はとても幸せそうな顔をしている。馬鹿。本当に馬鹿。

「なんで、あたしなんかを拾ったの。捨てておけば良かったのに。ただの人間なのに……一緒に居たいなら、同じ妖怪を探してよ……」

「ごめんな。巻き込んでごめん。黄金血とか、関係無かった。雅を好きなだけなんだ。一目で、俺の側に居て欲しいと思った。頭より先に体が反応した。それがたまたま、黄金血だっただけだよ」

 冗談を言っているようには見えなかった。真面目に、ひとつひとつ言葉を出している。それを、静かに聞くしか無い。

 あたしから視線を外し、深雪は小さな息をひとつついた。白い肌と長い睫毛が、とても人間っぽくなくて、綺麗で、でも、ああそう言えば彼は人間じゃないんだったと思い出す。

 馬鹿だ、あたしは。

 こちらの真剣さが伝わったのか、深雪の目がすっと緩む。なにか大事なことを言う決意が見られる。

「他種族と交わった俺の母親は、俺を産んで消滅した。雪の妖怪の掟を破ったからだ」

「……掟」

 深雪は、吸血鬼と雪女の間に産まれた。

「お母さまが禁じられた恋をしたってこと?」

「雪の妖怪は他種族と交わってはだめなんだ。……まぁ俺は関係無いけれど」