妖しく溺れ、愛を乞え

 ふっと息をついた深雪が「きみの」と発した。

「雅。きみの体には、力があるんだ」

「力……? あたし普通の人間だよ?」

 どこからどうやって話そうか、考えている目だった。深雪は真っ直ぐあたしを見ている。

「きみの血は、俺たち妖怪の力を増幅させ、寿命も延ばすことができる黄金血というものなんだ」

「それ、さっきあの人が言ってたこと?」

「そう。血、体液、体の全部に力がある。人間としては普通でも、俺たちにはお宝だ」

 オウゴンケツ。黄金の血。そういうことか。

 自分がそういう特殊な体だと分かった。たぶん、人間としては普通なんだろうけれど、妖怪たちにとっては特別なんだ。
 ちゃんと聞いて、理解しよう。ちゃんと……。怖がっていてばかりじゃいけないんだ。

「人間の中にだけ生まれ、数千人にひとりの割合で存在する」

「血を吸うとか、食べたりするの?」

「まぁ……そういうことだ」

 そういうことだったのか。

「じゃあ、あたしのこの体が必要だから、深雪はあたしと一緒に居るんだね」

「違う」

「なにが違うの。さっきの彼も、あたしをさらおうとした。そうでしょ? あたしの血が……」

「やめろ、俺はそういうんじゃない。信じてくれ」

 雅はあたしの肩を掴んだ。

「……そうなら襲って吸い取って捨ててしまえば良いものね。まどろっこしく会社に紛れ込んだり、同棲の真似事をしたりしないものね。あたしをすぐに殺さなかった理由を聞きたい」

 これが、運命か。