夜中、あんなに苦しそうにしていた深雪だったけれど、朝はいつも通りに起きて来た。先に起きて、炊き上がったご飯を見ていたあたしのところへ来て、後ろから抱き締められた。

「……どうしたの」

「なんでもない」

「大丈夫?」

「うん。ごめん」

 どうして謝るのだろう。

 いつものように起きて、いつものように朝食を食べる深雪の顔は、少しだけ疲れているように見えた。

「今日は、遅くなるの?」

 味噌汁をすすりながら、聞いた。

「どうかな。でも今日は出かける用事は午前中だから、午後は書類をやるよ。溜まってるし」

「そうだよね……支店長と連日出かけていて、押印が欲しいものも溜まって来ていて、みんな困っているよ」

 深雪のデスクにある未決書類が山積みになっていたのを思い出す。少し、不憫だ。

「手伝ってよ」

「それは無理でしょ」

「判子預けるから」

「仕事してください。専務さま」

 深雪は口を尖らせて、目玉焼きを突いた。
 昨夜、あんなに苦しんでいたけれど、いまは大丈夫みたいだ。少しホッとする。

 でも、心配だ。尋常じゃなかった。どうしたのだろう。どこか体の調子が悪いんじゃないだろうか。

 食事をしながら、くだらないことで笑う彼だったけれど、あたしの心には不安が少しずつ広がって行った。