妖しく溺れ、愛を乞え


「……せ、せんむ」

 かすれた声であたしは言った。言ったというか自然に出た。


「ああ、詳しくはあとで話すから。……飲み過ぎは良くないなぁ」

 二度目のやっぱり!

 事務所へ入り、電話へ案内すると、彼、尾島専務はニヤリと笑い、受話器を上げどこかへ電話をかけ始める。

 あたしは踵を返して、給湯スペースに駆け込んだ。乱れた呼吸はそう簡単に整わない。

 なんなの。なんの冗談なのか……。

「いやだあああああ……」

 もう、帰りたいです。




 建設予定地は丘の上、太平洋が見渡せてここにお布団を干したら気持ちが良いだろうなぁと思うような場所だった。会社から車で2時間ほど。

 良い天気だなぁ。今日が休みだったなら。月曜日だけど……そして友達とかと来てたならソフトクリームでも食べて、のんびり散歩でもしたい。

「……で、工期は1年9ヶ月予定。K建設A組JVで、注文書お見せした通りです」

「設備は決まってる?」

「電気は決まってます」

 支店長と部長が難しい顔で話している。同行した営業マンもペンで指しながら説明している。

 ひとりじゃねぇし。仕事だし。

 大体、あたし来ること無かったのではなかろうか。図面持ち携帯持ちの荷物係だし。支店長が、専務と部長に格好付けたいのかもしれないけれどさぁ。

「……はぁ」

「なにため息ついてるんだ」

「わっ」

 尾島……専務があたしの横に立って静かに言った。びっくりするからこっそり横に来ないでよ!