妖しく溺れ、愛を乞え

 美味しいお蕎麦を堪能して、あたしと深雪は庭に向かった。野菜や根菜を好きなくらい持って帰れば良いと、カゴも貸してくれた。

 前回ここへ来た時は、庭を見る余裕も無かったもんな……。
 
「わぁ~」

 野菜の香りがする。緑色の葉っぱがあちこち茂っていて、その間からきゅうりや真っ赤なトマト、カボチャも顔を出していた。

「雅、見て。枝豆もある」

「ビール飲みたくなっちゃう」

 こんなにたくさん。こういう才能あるんだなぁ。「野菜を育てる」なんていう力、あるのかな。

「すごいな、あいつ昔からマメだからなぁ」

「深雪は花とか貰っても枯らしそう」

「当たり」

 けっこうな広さの庭だ。庭というかほぼ畑にしている感じがする。お花とかも植えれば良いのになぁ。

 カゴに、キュウリ、とうもろこしも入れた。冷やしトマトも捨てがたい。枝豆も塩ゆで以外になにかメニュー考えようかな。

「そういえば、さっき圭樹が言っていたけれど」

 青々としたキュウリを手に取った。いまここで、すぐにでも食べたい気分。

「里の言い伝えに加えるって、またあそこに帰るの?」

 雪の里。あそこは深雪のふるさとだから。だから、きっと将来あそこに帰る日が来ると思う。あの家に。

「さぁな。そういうのは圭樹に任せる。俺は、戻らないよ」

 少し伸びて邪魔そうな髪が、風になびいた。とても綺麗な黒髪。太陽の光で輝いている。