妖しく溺れ、愛を乞え

 圭樹は自分の仕事である蕎麦屋で働き、深雪もそろそろ社会復帰かなというところまで来た。妖怪が社会復帰っておかしいね。

 実行されるにはまだもう少しかな。顔は綺麗なのに無骨な深雪の手を見ながら思った。

「どこかに深雪みたいな例外くんが居て、黄金血誘拐が横行したんじゃ、たまったもんじゃないわ」

「雅は希少種だからね」

 先に出てきていた浅漬けをつまんで、深雪が頷いている。

「猫みたいに言わないで」
「ハイ、天ぷら。蕎麦はいま持ってくるから」

 口を尖らせていると、目の前に天ぷらとおつゆが並べられた。舞茸、さつまいも、茄子……とても良い香り。

「わぁ美味しそう!」

「ほとんど、庭で収穫したやつだ」

「凄いね。作ってるの?」

 お庭で畑ができるなんて素敵だな。作ったものを収穫して食べるなんて贅沢。

「うち、蕎麦懐石もやってるから、今度食べにおいで」

 蕎麦懐石だって。なんて素敵な響き。
 口も手も動かすタイプなのか、話しながら圭樹が盛り蕎麦を2つ持って来てくれた。

 9月になりまだまだ残暑が厳しいから、冷たいお蕎麦にした。