妖しく溺れ、愛を乞え


「逝ったのか」

 襖の向こうから、声がした。圭樹だ。

「……っ」
「きみに看取られて」

 半眼で、穏やかな笑みを浮かべた口元。深雪の顔は、とてもとても綺麗で。燭台の灯りに揺れる白い頬は、まだ生きているみたいで、いまにも目を覚まして「雅、おはよう」なんて喋り出しそうなのに。
  
「雪が止んだ。庭に居るから、戻る時には声をかけてくれ」

 また足音が遠ざかって行った。 
 あたしよりも深雪と過ごした期間が長いから、最期に会いたかったはずなのに。まさか、襖の向こうにずっと居たの? 付いていてくれたの……?


「深雪……深雪」

 頬も髪も、この手も胸も。全部好きだった。本当は好きだったのに。

 畳に転がった涙の粒。あたしはそれを指で摘まんで拾い上げた。綺麗な石みたい。

 深雪の横に添い寝し、頬を合わせた。柔らかくて、冷たい。深雪、深雪。いくら名前を呼んでも、もう戻っては来ない。涙はあとからあとから溢れる。深雪の頬をも濡らしていく。

 握っていた涙の粒が、なんだか濡れているのに気付く。溶け出したんだろうか……人差し指と親指で摘まんで見ていると、ポタポタと雫が落ちる。

「……?」

 溶けているのだとしても、大きさが変わらないんだけれど……そう思った時、寄り添っていた深雪の体が、白く光り出した。
 もしかしてこれが……消える? 消滅する?

 白い光は強くなり、寝間着の中の体を包み混む。

「やめて、連れて行かないで。お願いだから、連れて行かないで……」

 白く光を放つ深雪の体は、見ていられないほどに眩しくて。もうこれが本当に最期なのか。消える、消えていく。深雪の体が。

 目を閉じた。深雪の想い、思い出を。温もりを、自分の中に刻むように。

「深雪、大好きよ……」