妖しく溺れ、愛を乞え

「ここを行くと、いままでより雪が少ない場所があって、家が立っている。そこに……居るはずだ」

「あたし、以前見せられたことがあるの。俺の実家だって言って。きっと、ここのことだったのね」

 圭樹はなにも言わなかった。

 ここしか無い。ここに居なければ、あとは見当も付かない。居て欲しい。居て、生きていて欲しい。

 圭樹が斜めになった木を除けると、開けていてまわりより雪が少ない場所に出た。視線をずらすと、雪をかぶった、大きな家。

「……深雪」

 自然と、駆け出していた。ブーツが濡れて重くて、体が冷えていた。だから思うように動けない。足が動かない。ピシリと閉まっている戸に手を伸ばしたら、足がもつれて転んでしまった。

「み、みゆき!」

 痛みが走る手のひらを見たら、擦り剥いてしまっていた。うっすらと血が滲む。
こんなのなんでもない。舌打ちをして、戸を開けたら大きな音がした。ちょっと乱暴だった。深雪が寝ていたら「うるさい」って怒られちゃうんじゃないだろうか。

  古い家だ。光が入って来なくて、暗い。でもとても広いということは分かる。目が慣れて来て、土間と囲炉裏があるのが見えた。ここは居間だろうか。
 ブーツと靴下を脱ぐ。濡れたままでは入れない。

「深雪、どこ? どこに居るの!」

 奥に続く廊下を進む。さっき通って来た庭に面しているのだと思う。障子がたくさんあって、どこがどこなのか……。
 ひとつ開け、誰も居なくて、またひとつ開ける。なにも無い。もっと奥に部屋がある。

「深雪、居るの? ……深雪」

 襖を開けると、床の間がある畳の部屋だった。オレンジ色の灯りが揺れる蝋燭が立てられた燭台。壁にもたれる、人影。

「み、深雪!」

 布団が敷いてあった。湯呑みと、ペットボトル。和室にそれがとてもアンバランスで。

 紺色の寝間着の前がはだけた深雪は、虚ろな目をあたしに向けた。そして、驚いたように目を見開く。

「み、やび……」

 トイレにでも行ったのか、戻ってくる時に布団まで辿り着けなかったという感じがする。