妖しく溺れ、愛を乞え

「お腹……空いたね」

「そうだな……俺は、まぁ食べなくてもなんとかなるがな」

 あたしは人間だから。里に行くのに、圭樹にとってはきっと足手まといなんだと思う。

「終わったら、全て終わったら、蕎麦食わせてやるよ」

「わ、本当? 楽しみにしてるね」

 いまは空腹だけれど、圭樹のその言葉で少しだけ元気が出た。終わったら。深雪に会えたら。

「雅ちゃんさえ居れば、俺と深雪は食事なんかいらないんだよな」

 圭樹は、ニヤニヤしながらあたしを舐めるように見た。

「……そ、そう」

 たぶん圭樹は、あたしと深雪がその……体の関係があること、分かるだろうか。感じるだろうか。分からないなら是非ともそのまま気付かないでいて欲しい。

「雅ちゃんの唾液だけでも欲しい」

「やらん!」

 なにを言い出すのか。

「なんだよーケチ。あいつには、やってるんだろうが」

「な、なに」

 なになに、ちょっと止めてよ。あたしの反応を診て、圭樹がニヤリと笑った。

「さっき分かったよ。きみからあいつの匂いがする」

 小さな望みは砕かれた。分かるのね。ああそうですか、そうですか。

「……その表現、生々しくていやらしいから止めてくれませんか……」

「別に良いだろう。同意の上なら」

「いや、あの」

「深雪も奇特なやつだよ。さっさと食ってしまえば良かったのに」

 そうしなかった。あたしは生きている。

「呪いが体を食い破っているっていうのに。黄金血を食えば、まだ長らえるっていうのに」

 圭樹は、降り落ちる雪に手を伸ばした。その雪は彼の手のひらで溶けずに残っている。あたしも手を伸ばしてみた。スウッと雪が解けていった。

「よほど、きみを愛しているんだな……」