妖しく溺れ、愛を乞え

「早く来てよ! ひとりにしないで!」

「分かったから……」

「絶対だからね!」

「うるさい。早く行け」

 ドン! 押すなんて酷い! 視界が塞がれ、なにも見えない。雪は白いのに入ると暗いなんて!

「うわあー! 寒い冷たい寒いよ暗いよ怖い!!」

 ドン! また押された。なんてヤツ! すると、足元がスコンと抜け、体が落下を始めた。

「い……いぎゃあああああああ!!!」

 死ぬ!

「……ぇぁああああー!!」

 ドサッ!

「……うお! 冷たい!」
 冷たいよ、なにこれ。痛いし冷たいよ。もうなんなのよ!

「どけ!」

「うゎあ!」

 おでこになにかがぶつかった。もう、さっきから効果音ばっかりじゃないの。冷たい。水? 違うな……雪だ。この感触。手や顔に付いた冷たいものは、雪だった。

「……なにも見えない。寒い。……あたし、死んだかな」

 目を開けているのに、暗い。おでこが痛い。寒いし。落下して打ちどころが悪くて、死んだのかな。

「すまんすまん。そんなところに埋まるから」

 おでこの圧迫感が解けて視界が開けると、圭樹の顔面アップがあった。近い。どうしたの、これ。

「……」

「……雅ちゃん、喋らないで黙っていれば美人なのに」

 近い。顔が近いよ。
 状況を把握するに、先にあたしが落ちて、その上に圭樹が落ちて来たと。圭樹はあたしに覆いかぶさった状態で、雪まみれの顔を手で拭いてくれた。

「ど、どういうことよ」

「さ、行くぞ」

 あたしの質問に答えず、すっと起き上がった圭樹が、あたしの腕を掴んで、引き起こしてくれた。

「あ、ありがとう」

 たっぷり積もった雪の上に落ちたから、助かったんだ。コンクリートだったら間違いなく死んでいる。