妖しく溺れ、愛を乞え


「よし、出たぞ」

「かまくらだね……」

 見たとおり、捻りの無いことを言ってしまった。

「ねぇこれ、かまくらだね!」

「そうだ……うるさい」

 圭樹は呆れたように言って、玄関へ向かう。そして、靴を持って来た。そんな靴で良いの? 革靴だけれど……。

「行くぞ。ダウンを着た方が良い」

「え、もう行くの?」

「当たり前だ」

 そうか、いよいよ行くのか。あたしは、持っていたダウンを急いで着る。
 冒険ゲームレベル1の主人公になったような気持ちだ。

「先に行け。大きさ的に1人ずつしか通れない」

「え! 怖いよ!」

 ひとりで? やだ怖い。どうしてもっと大きいかまくらを作らなかったのよ。

「大丈夫だ。すぐ後ろから行くから」

「ううう……」

 ただのかまくらなら、なんてことは無い。でも、すごく怖い。違うどこかへ繋がっている。知らないどこかへ。

「深雪丸のところへ行くんだろう? 会いに行くんだろう?」

 分かっている。でも、怖いんだ。怖いけれど、会いたい。どうしても、会いたい。

「う……ん」

「なら行け」

 リュックを掴まれ、体が一緒に引っ張られる。かまくらの入口に突きだされた。なによ、乱暴!