妖しく溺れ、愛を乞え

「ねぇ、里って日本にあるの?」

 10畳くらいあるだろうか。入って右側が庭へと出るのだろうか、窓がある。あたしがいる居間との間にある襖は開けられていて、普段は仕切られているのだろうと分かる。その部屋の真ん中で、圭樹は手を合わせ、なにやらブツブツ言いだした。

「俺たちは、日本の妖怪だからな」

「東北? 北海道?」

 なにか喋っていないと、落ち着かない。

「ちょっと黙っていてくれないか」

「……すみません」

 ……怒られてしまった。そうだよね。集中できないよね。話しかけずに静かにしていよう。

 圭樹はあたしをチラリと見て、背を向けた。ブツブツと何事かを言い、屈んで畳に手を着いた。すると、触った畳が青白く光り出す。息を飲んでじっと見ていると、それが段々と大きくなった。

「……ふえっ」

 光は円を描き、圭樹のまわりを囲んで行く。そして、ぱぁっと家中に散った。畳にはキラキラとした光が残った。
 屈んでいた圭樹がすっと立ち上がる。前に垂れた、括った長い髪の毛を後ろへ払った。

「家に結界を張った。強い術を使うと他の妖怪が寄って来てしまうからな。そうすると少々厄介だ。もう少し待っていろ。騒ぐなよ」

 驚いて動けないので、ご安心ください。深雪と圭樹が力を使うところ、何度も見ているはずなのに、やっぱり驚くし、少しだけ怖い。

 圭樹は再び手を畳に着く。今度は両手。そして、その両手からなにかが出てきた……雪だ。そこだけ丸く、ちらちらと雪が降っている。なんということなの。ふさふさと畳の上に積もり、あっと言う間に圭樹の背丈まで降り積もった。

「なん……発泡スチロール?」

 そんなわけが無い。分かっている。

「見て分からんのか。雪に決まっているだろう」

「畳、傷んじゃう」

「当たり前だ。良いんだ、あとでここだけ張り替える」

 そう言って指をパチンと鳴らすと、こんもりと積もった雪山の真ん中が弾けて、穴が出現した。

「わぁ!」

 これ、かまくらじゃん……。さすが雪の妖怪。雪の里へ続く入口が、かまくら。