妖しく溺れ、愛を乞え

 寂しくて、苦しくて、涙が出てくる。胸が痛い。苦しい。あなたが居ないということが、こんなに苦しいなんて。痛いなんて。
 分からなかった。好きだよ、愛しているって言われて、浮かれていた。それが、離れて行かないっていう証だと、勝手に思っていたのかもしれない。思い上がりもいい加減にしろ。

 どうして。

 好きだって、あたしと一緒に居たいって言ったのに。どうして置いて行くのよ。好きだって、愛しているって、あんなに言っていたのに。



 床にポタポタと零れる涙さえも、悲しくて。どうすることもできない。

「……うう……」

 リビングのテーブルに置いてあるスマホは、じっと黙っている。連絡が来るかもしれないと、思っていた。信じていた。

「……」

 ふと、大事なことを思い出す。かすかな望み。

 そうだ。圭樹だ。「なにかあったら連絡して」って言っていた。どうして思い出さなかったのだろう。唯一、あたしが知る深雪の仲間。

 彼なら、なにか知っているかもしれない。深雪がどこかに居るのか、生きているのか。それとも……もう消滅してしまったのか。

 うなだれている場合ではない。かすかな、細い糸のような望みでも、あたしはすがりつきたい。
 顔を拭って、スマホを取ると、保存していた圭樹の番号を恐る恐るタップする。お願い……出て。深雪の番号みたいに、消えていないで。

 4コール、5コール……出ない。気付かないだろうか。あたしの番号を知らないはずだ。あれから1度もかけていないから。それとも、全然違う人に繋がっていたりしたら……。

「……はい。もしもし」

「出た!」
 思わずそう口走ってしまう。良かった、出た。分かる。圭樹の声だ。

「ええ?」

「あ……ごめんなさい。雅です、雅、分かりますか? あの、圭樹さんですか?」

 電話から聞こえる圭樹の声にほっとする。深雪を知る知り合いと話ができる。