妖しく溺れ、愛を乞え

 深雪が、居なくなった。

「もしかして、もう……消えちゃったの?」

 うそだ。信じない。買い物でも行っているんだ。夕飯を作って待っていようと思う。
 荷物はそのままだし。帰って来るに違いない。スマホだって、機種変更をしに行ったのかもしれない。

 今日は休んでいるって、言ったんだから。



 ピンポーン。

 急にインターホンが鳴り、驚いて振り向いた。まさか? あたしは立ち上がって急いで玄関へ向かった。

「……深雪!」

 呼びながら確かめもせず、玄関を開けた。

「宅急便でーす」

「……あ」

 帽子を被り、制服を着た宅急便の人が、驚いた顔をして立っていた。深雪ではなかった。

 配送を頼んだ荷物が届いたようだ。重くて持って帰って来られなかったもの。ひとりでリビングに運ぶ。

 ダンボールが数個。なんなのよ……こんな時にどうして届くのよ。空気を読んでよ。

 もしも……帰って来なかったら、この生活用品は全然意味が無いのに。

「深雪」

 あたしの声は、静まり返ったリビングの空間に、吸い込まれて行った。