妖しく溺れ、愛を乞え


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 あたしは出勤の途中、コンビニに寄っていた。朝はホテルの朝食だったけど、お昼は買わなくちゃ。昼休み、外へと食べに行くわけにいかないからだ。

 会社は、一応大企業ゼネコンの部類には入るけれど、あたしが働くところは地方の小さな営業所。所帯も女性の事務があたしを含めてふたり、あとは営業と工事部隊の男性達。少数精鋭とは聞こえは良いものの、大企業の端っこでのんびり営業しているようなところだった。

 会社があるビルへ入り、フロアへ急ぐ。ホテル、会社の近くにしといて良かった。


 知らない男に拾われたあの日から、数日が経過した。

 あんなことがあったから、最近なかなか寝付けなくて、寝不足気味である。ホテル住まいだっていうのもあるんだろうな。今朝もバタバタしてしまった。

「雅ちゃんおはようさん。今日も元気かい」

 更衣室へ向かおうとしている時、会社のおじちゃんと会った。

「おはようございます。もう現場ですか?」

「んだ、もう行くよ。朝ちょっと寄っただけだ」

「お疲れさまです。いってらっしゃい」

 ニコニコと恵比寿様のような笑顔で、おじちゃんは出かけていった。でもちょっと、作業服の裾が短いんじゃない?