妖しく溺れ、愛を乞え

 奥のふたりがけ席へ行き、座った。圭樹は紅茶、あたしはオレンジジュースを頼む。

「たぶん、そんなに目新しい話は無いと思うけど。まぁ俺も少し話したかったし」

「15分くらいでお願いします。待ってるので……早く帰るって約束したから」

「甲斐甲斐しいね」

 運ばれてきたコーヒーをひとくち飲む圭樹。おかしいね、雪男がホットコーヒーを飲むなんて。

「いま、あいつはどうしている。元気なのか」

 それ、さっきも聞いたのに。よほど体のことが気掛かりなのか。

「ええ、おかげさまで」

 あたしなんかより、きっと深雪について詳しいに違いない。同じ、雪の妖怪ならば。

「お友達、なんですか」

「まあ、そうだな。そう言っても良いだろうな」

「ふうん」

 深雪がそうであるように、人間に紛れて生活しているんだろう。もう、どうなっても驚かないんだから。

「先日は、悪かったな。深雪が黄金血の女と一緒に居るのを見つけて、横取りしようと思ってな」

「ずいぶん正直ですね」

「だって、そう簡単に見つからないもんでね……黄金血」

 カップを置くとカチャリと乾いた音がした。舐めるように見られて背筋がぞっとする。
 圭樹は「いいかな」と聞いてから煙草に火を点けた。美味しそうに深く吸うと、ふぅと長く煙を吐き出した。

「あいつとは、一緒に住んでたこともあってね」

「そうなんですか」

「遠い昔の話だ」

 他県から出てきた同級生みたい。仲間だし、言い争いをしてもなんだかんだ言いながら、仲が良いのかもしれない。

「圭樹さん……呪いを解く方法を知らない?」

 あたしの言葉を聞いて、圭樹はまた煙草を吸った。

「不幸なもんだよな。親の呪いを受け継ぐなんて。身に覚えの無いことなのに」

「……」

「知ってるなら、とっくにあいつに知らせているさ」

 彼はどこか遠くを見るような目をした。

「そう……ですか」

 大逆転の何かが起きると期待したのは間違いだった、か。

「きみと一緒に居れば、あいつはたぶん生きていられる」

「どうしてですか?」

「黄金血。延命には、もってこいだ」

 やっぱり。そういう理由だと思った。

「深雪は、いつまで生きられるんだろう」

「悪いのか、あいつ」

 病院にかかってるわけじゃないから、なにがどう悪いのか、どこが蝕まれてるのか、そういうことは分からない。

「時々苦しんだり……この間は会社で倒れて」