妖しく溺れ、愛を乞え

 ビジネスホテルで変死体発見のニュースが市内を駆けめぐるに違いない。

「はぁ?」

 筋肉がふんだんに付いた上半身を捻って体を起こすと、彼は呆れたように頭を掻いた。

「なに言ってんだ……」

 あたしを哀れんでいるのかもしれない。男に捨てられて、やけ酒して泥酔して、道でゲロしてる女を拾って、どうしようと俺の勝手だろうゲヘヘヘヘ。

「そんなに嫌ならしないよ。おいおい、大丈夫か?」

「うっうっ……」

「乱暴はしないって。泣き止め。怖がらなくていい」

「う、ぼんどに……?」

 メイクしたまま寝ていたから、顔はグチャグチャ、そしてきっとゲロ臭い。

「まったく……」

 彼は立ち上がり、出口へ向かう。ハンガーにかけてあったTシャツを触ると「ん、乾いた」と言ってそれを着た。

「そろそろ帰る。ちょっと話もしたかったけれどな」

 か、帰る? いいの? 終わったの? 気が済んだの? そう聞きたかったけれど、またなにかされるんじゃないかと思ったから、黙っていた。

「そんなに怖がるなよ。傷付くなぁ」

「う……だって」

 デニムのベルトを締め直し、靴を履いてスリッパを蹴飛ばした。

 高い位置から見下ろされ、あたしは惨めだった。か、帰る? 話をしたかった? だって、あたしを襲おうとしてたのに、なにを言って……帰るの?