せっかくそれを持ち、生きているのに。


せっかく誰かを想う気持ちを持つ事が出来るのに。


せっかくその想いをハッキリ言う事が出来る力を持っているのに。


「御堂さんには、その、口で想いを伝える力があるのに、どうして何も言えないのでしょうか。勿体無い……な」


最後の方は彼女に言ったというより、独り言になり、外の空気に簡単に溶け込んでしまう。


でも、まさか私にそんな事言われるなんて思っていなかったらしい御堂里佳子は、言い表しようのない、間の抜けたような、そんな顔で私を見ていた。


「あ、アタシ、まさか片岡にそんなこと言われるなんて、思ってなかった。嫌われてると思ってたし」


「いや……嫌いでは、無いですよ。ただ素直なだけだと思ってます。まぁ、それが人に多大な影響を与える事もありますが」


「……ふは、お前だってズケズケ言ってんじゃねぇかよ」


あんなに辛そうな顔をしていたのに、御堂里佳子はいつの間にか、まるでそこにたんぽぽが咲くのが当たり前なように、ごく自然に柔らかな笑みを浮かべている。


いつも威圧的で、キツイ印象の彼女が、こんな風に笑う事を、私は知らなかった。


彼女の笑顔を見ていると……もう私には無い筈の場所へ、ひだまりが降り注ぐみたいだ。