別荘からローカル線を乗り継ぎ、奥地にある寂れた街へと足を運ぶと、そこだけじんわりと灰色が滲んだかのような、水墨画のような世界。
「小学校二年の夏、あの通りラボに篭りきりの父に愛想を尽かした母と共に、私は母の地元へと移り住みました。母方の祖父母は既に他界していたので、私と母の二人きりでした」
辿る一番古い記憶は、蝉が生きたいと命を叫ぶ残暑、母と手を繋ぎ、この街の小さな家の前に立っていた事。
「母子家庭になってしまった私達でしたが、母は介護福祉士の資格を持っていたので普通の生活は出来ました。……ただ、子供ながらに忙しい母の背中を見つつも、寂しかった事を覚えています」
足を止め、言葉を止めると、黙って話を聞いてくれていた皆の足音も止まる。
私と母がひっそりと暮らしていた小さな貸家。その貸家は、今や何も無い空き地となってしまっていた。
まるごとごっそりと穴の空いたそこは、ルイと出会う前の、そして大切な人を作る以前の私のような空間で、胸の奥の空虚に響く。



