程なくして、ルイは当たり前の日常へと何事も無かったかのように戻って来た。


学校では、特に変わった素振りを見せないルイだが、彼の機能の小さな変化は私にとってはかなり良く見えてしまう。


例えば、ルイには『味覚』に近いものが無くなってしまったようだ。


朝食時、目を覚ましてリビングに行くといつも通り朝食を並べながら「おはよう」と挨拶をしたルイ。


しかし、並んだ朝食は二人分。ラボに篭りきりの父の分と、おそらくルイの分が無い。


「ルイ、お前の分は?」


同じくそれに疑問を持った成に問われれば、ルイは少し寂しそうに微笑んだ。


「お父さんと話し合って、ボクは味覚に近い機能を取ったんだ。学校で食べないのは不自然だからタンクはあるけど、もう、大好きな紅茶もコーヒーも、どんな味かは分からないんだ」


誰かと食べる事、紅茶やコーヒーを好んで飲む事、ルイにとっての小さな幸福だったそれらは簡単に無くなってしまった。


その事実に、私も成も愕然としながらも、特に何も言わない。否、言えないのだ。


ルイだって何故聞かないかと問わない。きっと、知らないふりを私達がしているのに気付き、知られてない振りをしているのだ。