程なくして、成は正式にお兄さんが戻るまでの三ヶ月半の間、私の家に居候する事が正式に決まった。


あの頼りない父と、無気力教師美樹が組んであの人を説き伏せたらしい。その場には『大人の取引』 だと凄まれて立ち会えなかったが、ルイを造り出した父だ。相当な材料を持って説き伏せたのだろう。


成が家に来る日、十二月の二十八日、大きなボストンバッグを抱えた成と、成の父親が家へ来て父と私とルイに挨拶をした。


「どうか、よろしくお願いします。私が不甲斐ないばかりに成には苦しい想いを沢山させました。どうか、どうか何卒……」


小さな頭を下げ、マッチ棒のような細い身体を折り曲げる成の父親は、あの時、私を診てくれたよりもずっと頼りなく映った。


成を守りたい気持ちがあった事にはホッとしたけれど、この人も、成の兄も、結局はあの人を選んだ人で、そういう意味では心のどこかで冷めた目でその頭を見てしまう部分がある。


「アナタも、この機会に何を守るべきだったのか考えて。今のエミリが社会に出れるまでにしてくれたアナタには感謝しているけど、アナタが自らを削ってでも守るべきは、奥さんでも、エミリのような患者でも無いんじゃない?」


ルイが冷たく、意識的にヒューマノイドロボット寄りの声で放った言葉の銃弾が、目に見えてまっすぐ、そして素早く彼を撃ったのが分かった。


彼は俯いたまま成の肩を叩き、もう一度深くお辞儀をすると、ドアの外の光へと吸い込まれてしまった。きっと、この後も私のいた白い箱で一番守るべきものでなくても、彼しか救えない者達を彼は守るのだ。