「何となく、精神科の病棟はその想いを持ってそれぞれ独りの人が集まる中間地点な気がして居心地が良かったよ。……変だよな。そう思っている時点で、自分が独りじゃない事は分かっている筈なのにな」


「そうですね。それでも、不条理が降り注ぐのを、自分はこの世界に適合出来ない孤独な罪人だと思う事で、何とか生きて行けた。……私もそうだった。感情を捨て失せた振りをして、そう取り繕っていました」


うん、と頷いた成はどこまでも穏やかで、柔らかくて壊れそうなのに、胸が温かくなるような何かを持っている。


「俺はね、そうやってそこを彷徨いている時に救いの女神に出会った。そこは、白い無機質な箱の中だった。本来入る事は許されてなかったその神聖な箱の中に、俺は吸い込まれるように入ってたんだ」


白い箱。どこまでも白で、その白に飲み込まれてしまいそうなあの部屋。そこに現れた彩で溢れた神様は、目の前の罪を犯した咎人を女神と呼ぶ。


「白い部屋にいた女神は、幼くて、息をするのが苦しいくらい綺麗だと思った。傍らに古びた機械の使者を連れて、女神はどこまでも無機質に、この世界に絶望していた」


成から語られる白い箱の中の出来事は、私が見た物とはあまりにも違う印象に感じる。あそこに居たのは、何者でもないただの罪を犯した私だったと言うのに。