「笑里ちゃん?どうしたの?……あれ、教室、どうしたんだろう」


良きタイミングか悪いタイミングか、このタイミングで、燭が遅めの登校をして来る。


「電車が人身事故で遅延しててギリギリだったんだけど、あの、何かあった?」


「え、ええ。燭はいなくて良かったのだと思います」


教室の様子、中心で取り巻きに止められるあの子と成に半ば抱えられるように止められる里佳子の光景に、燭は眼鏡の奥の長い睫毛を伏せた。


「やっぱり、俺がリカちゃんの傍にいるのは良くない事なのかな。けど、辛いんだ。彼女に酷い事をして気まずくしても、結局近付きたくなる。離れていると、痛いから……」


左胸を、皺が寄るのも気にせず強く握り締めた辛そうな燭を見て、私も胸の奥が熱くなった。


それはどうにもモヤモヤした、昂った熱。燭に対して罵倒してやりたくなるような、腹の底から煮え滾る想い。


この感情を思い出せない。胸が熱くて、眩暈がして息が出来なくてクラクラする。


「笑里ちゃん!?」


そうしているうちに、意識がシャットアウトする。世界がスローモーションになり、頭が働かない。


この感情は、昨晩見た夢で母からおもちゃのロボットを取り上げられそうになったあの時にそっくり。あの時、私はどんな感情を持っていたのかな。