そうしているうちに、里佳子とあの子は取っ組み合いの喧嘩を始める。


体の丸っこいあの子に対してかなり細身の里佳子は力では敵わない。


流石に不味いと判断した傍観者の男子達が必死に止めに入るのが、スローモーションで目に映る。


成は、その一連の流れを表情一つ変えずに眺めているだけ。


ああ、私もきっとこんな顔をしているのだろう。喜び以外の感情がまだ無い私も、成と同じような顔。


それが急に恐ろしい事のような気がして、眩暈がして、世界が暗転する。


「ナル、行こうよ。止めに」


訝しげに成を見つめていたルイが肩を揺すった事で、成はハッとした顔をしていつもの表情に戻った。


「お、おおおう!……おーい!何してんの!女の子なんだからもっとネチネチ陰険に喧嘩しなさーい!」


もういつもの成だ。この危うい歯車達を一つも取りこぼさない、いつもの。


成の介入で、クラスメイト達が安堵するのが良くわかる。この人達は、彼がさっきまで無意識に無慈悲な神であった事を知るよしもない。